ボーイズ・オン・ザ・ラン



これはやばい。


上映中、映画館の肘掛けを思い切り叩きたくなる衝動をずっと堪え続け、血が滲むほど指を噛んでしまった。好きな映画は数あれど、これほど魂が揺さぶられる映画を観たのは初めてかもしれない。好きになったあの子も、大嫌いなあいつも、不甲斐ない自分も、全ての奴を殴りに行きたくなるし、YOU演じる風俗嬢とほのかに煙草の味がするキスをしたくなる。一言で言えばそんな映画だ。もしこの世に「破壊していい映画館」というのがあったとしたら、自分は何のためらいもなくメチャクチャにしただろう。この映画を見るのはマジで辛すぎる。でも辛すぎるがゆえに傑作だとも思う。



※以下ネタバレあり


主人公の田西にヒロインのちはるがしたことは本当に許されることじゃないし、「そんな女殴っちまえ!」って誰でも思う。当然だ。でもそこで「殴っちまえ!俺なら殴る!」って言えるような人間なら、この映画にそこまで魂を揺さぶられることはないんだろう。好きになった女の子がどんなに性悪で愚かだったとしても、その子のために何かできることを探してしまうような、そんなどうしようもない人間のためにこの映画はあるんじゃないか。別にそれが美しいとか立派だとか言いたいんじゃなくて、気持ち悪いことにどうしてもそうなってしまう、そういう悲哀の部分を誰かにわかって欲しいっていう、最後に別れの駅で田西がちはるに言いたかったことはそういうことなんだ。それが台詞的には「何で俺とはセックスしてくれないんだよ!」ってなっちゃうんだから、もうほんと、あまりの激痛に大声で叫びだしそうになりましたよ。精神状態次第(フラれた直後とか)では、発狂していてもおかしくない場面だったと思う。


カップルで観に来ていた人たちもいたけど、もし観終わった後に彼女が「田西君みたいな人って素敵」、「ちはるみたいな女ってサイテー」とか言ったらと考えると恐ろしい。それはマジで何にもわかってない発言だと思う。そういう上っ面の話をしてんじゃねぇんだよこっちは! でもその感想が間違ってるわけではないし、何に対してそんなに腹が立つのかはわからない。ただただ何か大切なものを汚された気がするだけだ。だからこの映画に共感できちゃう人間っていうのは、ほんと生きてて損ばっかりする奴等だと思うし、この映画の感想を女の子に求めるべきじゃない。特に好きな女の子には金輪際、その存在すら知らせない方がいい映画だと思う。


それにしても凄い作品が生まれてしまったものだ。劇中に出てくる「タクシードライバー」も童貞映画の金字塔だが、舞台が現代だけにこちらの方がより胸に迫ってくる。もうほんとに、ほんとにほんとに観ていて辛い映画だが、何故か「ロッキー」を観た後のような高揚感、全能感もあった。やってやらなきゃ、いけ好かない奴等に一発食わえてやらなきゃって感じがした。


レイトショーの終わった映画館を出て、思わずボーイズオンザランニングしたくなったけど、一緒に出てきた人たちに「あ、あいつ(笑)」って思われるのが嫌でできませんでした。