牛泥棒(1943/米 ウィリアム・A・ウェルマン) ★★★★

牛泥棒 [DVD]

 「うわぁ」と思う後味の悪い映画と言えば、自分が観た中ではヴィットリオ・デ・シーカの『自転車泥棒』とか『ファニー・ゲーム』があげられるが、この『牛泥棒』も相当なもの。牛泥棒の嫌疑がかけられたカウボーイ3人が住民の集団リンチにかけられ、「もっとしっかり裁判をやるべき」という少数派の声も届かず、あれよあれよと縛り首にされてしまうという内容で、処刑した後で無実だったということが判明する。無実の善人を処刑した後、酒場のカウンターで「やっちゃった…」とうなだれる住民の表情に、こっちまでが絶望的な気分になってくる。

 処刑されたカウボーイが最後に残した妻あての手紙に、「彼等は煽られていただけで、本当はよい人達なのです。一生このことを背負っていかなければいけない彼等が可哀想です」などと書かれているところは本当に胸に迫る。個々人では善人であるはずの集団が思考停止し、「正義」の御旗の元に暴力を行う結果は常に悲惨である。その集団の中で「間違っている!」と叫ぶ勇気があるかどうか、強烈に問いかけてくる映画。内容が濃い上にキリッと76分で締める素晴らしい映画だが、主人公の前の彼女が出てくるシーンがまるで不要な気がする。あのシーンはなんなんだろう。