秒速5センチメートル

秒速5センチメートル 通常版
 「ほしのこえ」、「雲の向こう、約束の場所」ではまだ「なあにを言ってやがんだよう!」と斜に構えて見ることも許された感じだったが、新海妄想劇場もこの作品を迎えるに当たってついに一段上の自意識レベルに到達したというか、今作は最早直視することすら難しいほどにキモい。三話構成の映画なのだが、第一話は「ウヒー!」と叫びながら部屋の中を転がりまわらないと鑑賞できなかったし、第二話は「自分のことを好きな女の子の気持ちに気付かない俺カッコイイ」というタカキくん(新海先生自身)の超人的キモさに呆然とし、そして第三話で一話の初恋の話をうやむやにしたまま、山崎まさよしの『One more time One more Chance』を自信満々の「どや?」顔で流すそのセンスを目の当たりにしたところで、自分の中で何かがゆっくりと崩壊していくのを感じた。

 いや、凄い。世界広しと言えども、ここまで後にひけないレベルで童貞をこじらせている作家は新海先生だけだろう。新海作品は確かに情状酌量の余地なく後ろ向きでキモいが、その暴力的なまでに先鋭化されたセンチメンタリズムは、新海誠という作家の確かな才能でもあり、「最早この人は自らの妄想の世界に殉じるつもりなのだ」という前のめりの漢らしさすらこの作品からは感じられた。新海先生、あんたすごいよ! オンリーワンだよ!「こんなメソメソした自意識映画作ってんじゃねぇ!うわっ!でも何だか見ちゃう!」と僕等を悶えさせるために、末永く作品を提供してもらいたい。