悪夢探偵 ★★★★

悪夢探偵 スタンダード・エディション


 望まぬ能力を持ってしまった男の話。人の夢の中に入ることのできる特殊な能力を持った男、影沼。だが彼は見えなくていいことまで見えてしまう自分の能力を「不幸だ」と嘆き、厭世感にとらわれ自らの命まで断とうとしている。そんな折、世間では寝ている人間が自らの体を切り裂いて「自殺」する事件が多発していた。被害者に共通しているのは、死ぬ前に「0」という謎の男と携帯で話をしていること。被害者は「0」に何らかの暗示をかけられていたのではないか…と睨んだ女刑事は影沼に協力を依頼する。


 女刑事を演じるhitomiの棒読みっぷりが中々ショッキングではあるが、見た目的には「こういう刑事がいて欲しいなぁ…」という願望を十分満たすものなので相殺、いや、個人的にはむしろプラス。設定として面白かったのは、警察組織の中に捜査に役立ちそうな特殊能力を持った人間をファイルして管理しているような部署があることで(はっきりとした説明があったわけではないが、多分そういうことだろう)、女刑事もその部署の情報から影沼の存在を知ることになるのだが、「なんと夢のある設定だ!」と思った。悪夢探偵以外にも、これから人を殺そうと思っている人間の殺意をレーダーのように探知できる探偵や、触れたものから犯人の記憶を読み取る探偵なんかが、今日もどこかで難事件を解決している。そんな空想をするだけで、今日のご飯も美味しく食べられる。この時点で自分はこの映画が好きになった。


 人々が見る悪夢のシーンも、さすが塚本晋也といった感じで素晴らしい。整然として冷たい都会の風景は、一皮剥けばおぞましい緊張感を孕んでいる。時に何もかもぶち壊したくなるが、その実一番ぶち壊してしまいたいのは自分自身だ。人間が生きている限り吸い寄せられる負の空気というものが、この映画には満ち満ちている。ポジティヴに生きていたい人は見ない方がいい映画かもしれない。見ても、その後に「プラダを着た悪魔」なんかを見れば大丈夫!


 今年、第二作目が公開されるようだ。女刑事との交流で多少前向きな心を取り戻した悪夢探偵が、自分の能力に自信を持ち始めるような王道系の流れになるのか、それとも更なる人間不信が彼を襲うのか。注目してみたい。