ゾディアック

ゾディアック 特別版
 アメリカ初の劇場型犯罪「ゾディアック事件」と、事件に翻弄されるマスメディア・警察・大衆の様子を非常に丹念に再現した映画。ありとあらゆる資料を掘り返したんだろうなぁと思わせるその再現ぶりたるや鬼気迫るほどで、これからは「ゾディアック事件」の何たるかが知りたければこの映画を見ろ!と言うだけで事足りる。現実離れしたヒーローや殺人鬼、凄惨な殺戮シーンなどは登場しないものの(それでもダムの刺殺シーンはかなりドキッとさせられた)、事件にとり憑かれほとんど偏執狂になってしまう主人公や、埒の明かない捜査に次第に倦み疲れていく刑事、事件に暗い興味をそそられる大衆、あまり狡猾とは思えない凡庸な容疑者、それら一人一人の人間の絡み合いや齟齬が重なって、「ゾディアック」という混沌が作り出されたのだということが巧みに描かれていて、一つの猟奇殺人事件にとどまらない奥行きの深さを感じることができる。「殺人事件を面白がるなんてバカらしいやい。みんな騒ぎすぎじゃないの?」と大方の人は思っていたんだろうけど、「わかっちゃいるけどやめられない」という吸引力がこの手の犯罪や騒動にはあるわけで、そういった意味で最近の亀田騒動も劇場型犯罪の趣きがあったと言えるかもしれない。別にどうでもいいんだけど、何か一言言わないと気が済まないなっていうあの気持ちはなんなんだろう。