疑惑 ★★★★

疑惑

 野村芳太郎監督の松本清張原作モノをあまり消化していなかったので、しばらく野村芳太郎祭りを開催することにする。埠頭から海に飛び込んだ車には、前科四犯の札付きの悪女と、その夫である資産家の男が乗っていた。夫は溺死し、女は生き残る。夫には三億円に上る多額の保険金が掛けられており、その受取人は女。警察・マスコミはこぞって「保険金目当ての計画殺人」と決め付けるのだが、裁判は一筋縄ではいかないもつれた展開に…。


 うーん、凄まじく面白い。もう如何にも「保険金目当てに人を殺しそうな女」が、実際そういうシチュエーションに放り込まれ、周りの人間は「どう考えてもやっとるわ」としか思わないんだけれど、真実をつまびらかにしていく内に段々「あれれ…?ひょっとしたらやってないの…?」という感じになっていくという、「予断って怖いね」というお話。ただ実際桃井かおり演じる主人公の女は凄まじい性格破綻者で、カッとしてガスバーナーでホステスの顔を焼いちゃうような人間なので、周囲がそういう人間に疑惑の眼差しを向けるのも仕方がない。でもそういう「こいつは異物だ」的な眼差しが、人格障害を抱えた人間をさらなる固い殻に閉じこもらせているとも言えるし…。コントロール不能の部分を一部として受け入れるのには非常に時間がかかるものだが、マスコミが事件をセンセーショナルに報道して、あたかも「やってる」ことを既成事実であるかのように断定してしまうのは、社会全体のシステムがそうした「異物」を排除することを望んでいるからなのかもしれない。異物であること、均質でないこと、それ自体の罪。結局異物を受け入れない社会のくせに、「個性を重視して…」なんてことを平気で言いやがるんだからタチが悪い。桃井にワインをぶっかけられても激することなく、平然と「あんたって最低ね」と吐き捨てることのできる岩下志麻子のような度量を持ちたい!(見下し排除するのではなく、異物を異物として認める在り方!)