ウォッチメン観てきた ★★★★


 公開日は3/28だけど、まきの君が試写会に誘ってくれたので行ってきた。これは無茶苦茶面白い! 舞台は現実の歴史とは違い、ベトナム戦争アメリカが勝利しニクソン政権下によるゴリゴリの軍事体制が敷かれているという1980年代のアナザー・アメリカ。アフガンに侵攻したソ連との緊張状態がピークを迎え、今まさに全面核戦争の危機を迎えている…という設定。『ウォッチメン』というのは、1940年代からアメリカの正義を守ってきたスーパーヒーロー達による自警団で、現在はその活動を政策によって禁止されているが、そんなある日、元ウォッチメンのメンバーであった男が何者かに殺され、その事件に絡む陰謀が徐々に解き明かされていく。原作は「アメコミの歴史を変えた」と言われるアラン・ムーアの大傑作だが、ヒーローへの批判精神といい、バイオレンス溢れるダークな世界観といい、とにかく素晴らしいの一語。


 劇中に登場する様々なスーパーヒーロー達は、それぞれ精神的な欠陥や、家族にまつわる問題を抱えていて、彼等のバックボーンを語りつつ、「人類の存亡がかかる『全面核戦争』の危機に、ヒーロー達はどう行動するのか?ヒーローはアメリカのためだけでなく、世界平和のためにその能力を使えるのか?」という主題をサスペンス溢れる展開で一気に見せるのだからたまらない。2時間40分という上映時間を長いと感じる暇もなく一気に引き込まれる。以下ネタバレあるので、3/28の公開を楽しみにしている方は注意!(試写会だとやはり設備面に関しては弱いので、公開始まったらもう一回観に行きたい。 まきの君ほんとありがとう!)









ボブ・ディランの「時代は変わる」に合わせて、1940年代からのヒーローの活躍とアナザー・アメリカの歴史がスチール撮影のような技法で描かれるオープニングが強烈にカッコイイ。アンディ・ウォーホールチェ・ゲバラのそっくりさんなんかも出てくるのだが、一番そっくりだったのはJ・F・ケネディ。有名な暗殺シーン(ジャクリーン夫人の脳みそ集め)が完コピで再現されていて、これは本当に凄いデキ。そしてケネディを狙撃したのはウォッチメンの一人、コメディアンだ!

 コメディアンはニクソン政権にべったりのヒーローという設定があって、軍需産業とつながりの深いニクソンのためにケネディを暗殺したのだな、ということがこのシーンでわかる。そしてニクソン政権下で、『ウォッチメン』世界のアメリカは強硬路線を突っ走る。


●コメディアンは同時に、物語の発端となる「暗殺されたウォッチメン」であり、冒頭で何者かにボッコボコにされて窓から放り投げられる。壁や家具が吹っ飛ぶ格闘シーンはド迫力。コメディアンは『ダークナイト』で言うジョーカーのようなポジションであり、人間の醜い部分を自らパロディとして演じてみせる道化師のような男。同じヒーロー仲間をレイプしたり、ベトナムで女子供を殺したりと悪逆の限りを尽くすが、善悪を差別しないという点では神や自然に近い存在とも言え、仲間からの評価は割と高い。


●コメディアンの殺人事件の謎を追いはじめるのが、『ウォッチメン』で最も魅力的なダークヒーロー・ロールシャッハ。その名の通り、彼の被っている覆面には常にインクの染みのような模様がランダムに流れる。暴力的で、悪人を殺すことに異様な執念を燃やす取っつきにくい男だが、トレンチコートとソフト帽というマーロウを思わせるハードボイルドな佇まいと、自らの正義を貫くのに妥協を許さない姿勢がとんでもなくカッコイイ。生い立ちや境遇がド不幸なのも萌える。挨拶代わりに悪い人達の指をへし折っていく。


バットマンをモデルに悪意をもって描かれるのが、『ウォッチメン』で最もダサいヒーロー・ナイトオウル(オウルはミミズク)。金持ちのボンボンで、地下にバットモービル的なマシーンも持っている。バットマンと同じく、「悪人でも殺すのはちょっとね」というような肝のすわってないスクールボーイなキャラとして描かれているが、ブルース・ウェインとは違い自分の変態性には割と自覚的で、インポテンツも暴力によって克服する。


●実験中の事故から全身が青く輝く「歩く核兵器」として、どういう理屈かはわからんけど時空を越えた神の如き存在になってしまったのがDr.マンハッタン。巨大化したり、人間をチリの如く消し去ったりと、常軌を逸したパワーと知能を持つ一方、人間関係に疲れて火星で瞑想したり、娘ほどの年齢の愛人と分身してセックスしたりと、聖なのか俗なのかよくわからん人。こいつが原因で数百万人ぐらい死ぬが、結果的に「人類をおびやかす共通の敵」として全人類団結の礎となる。団結のためには尊い犠牲と仮想敵が必要!


●オーラスの南極基地でのいざこざは、「話がでかい割に、スモールパッケージな感じだな〜」という気がしてしまった。ロールシャッハがドブさらいしながら独白してるような場面が一番かっこよかったので、そこがもっと多かったらよかった!


●とにかく「ロールシャッハが鬼かっこいい」ということに尽きる映画。


●男性至上主義的な内容なので、フェミニスト及び女性にはあまり受け入れられないかもしれない。ということはヒットはしない。


●眠くなってきたのでとりあえずこの辺で。