チェイサー

チェイサー
チェイサー ディレクターズ・エディション【初回限定生産2枚組】 [DVD]


観終わってとにかく呆然。


風俗嬢や資産家など21人もの人間を殺した韓国の「ユ・ヨンチョル事件」が元になっている映画で、消えた風俗嬢を探す元締めのヤクザと、犯人の快楽殺人者、そして無能きわまる韓国警察の血生臭い追跡劇が、湿気ムンムンのソウルの街で繰り広げられる。犯人は最初からわかっているし、ストーリーも単純なものだが、120分画面からまったく目を離すことができない緊張感ある演出と、銃器刃物を一切使わず肉体だけでぶつかり合う骨太の格闘シーンが見事。鬼の形相をした汗みずくの男達が、暗い街で鈍器でぼこぼこ殴り合って血だるまになる。平たく言えばそんな映画だが、それがすっごく韓国っぽい。


で、何にそこまで呆然とするかと言えば、映画に関するとある「お約束」が、この映画では確信的に破られているからだ。そしてそれが事前にわかってしまうと、多分この映画を観る意味はなくなる。よりたくさんの人に自分と同じ愕然とした思いを味わって欲しいので、それが何かはあえて秘すことにしたい。人によっては怒り狂うかもしれないし、当然不快にもなるだろうが、あえてこうした手法を選択したが故に、世界で数多く起きる陰惨な事件の被害者の感情、一方的な暴力にさらされ抵抗することもできない者の絶望感を、スクリーンに描き得ているとも言えるのではないだろうか。


この映画の発する理不尽な暴力に打ちのめされ、ほうけた頭で座り込み、煙草をくゆらせる。その時世界のどこかでは、映画の中の被害者と同じ恐怖に晒されている人がいる。確実に。もしかしたらすぐ隣に。