火星ノンストップ

火星ノンストップ (ヴィンテージSFセレクション―胸躍る冒険篇)

 と学会会長山本弘による傑作SF短編集。何と言っても表題作の「火星ノンストップ」の荒唐無稽さとセンチメンタリズムを激賞したい。無着陸飛行専門の冒険家が地球の大気を盗むエイリアンと対決するため、時代遅れのプロペラ機に乗ってその盗まれている途中の大気でできた竜巻の中を突っ切って火星に行くという、まるっきり正気を疑うような内容だが、徒手空拳で勝ち目のない戦いに赴くヒコーキ野郎の心意気に目頭が熱くなる。科学者から「あなたみたいな男はもう時代に必要とされてない」と蔑まれ、一人ボロボロの愛機を見つめる眼差しに、突如として反骨の炎が燃え上がる!

「そうさ。やったってかまわないじゃないか」

「やったっていいだろ、おまえ。ずっと空気はあるんだ。空気のあるところなら、おまえはガソリンで飛べるんだ。希薄で、激しく流れているかもしれん。だが、おれたちはいままでだって、高空を飛んだことがあるんだ。エアポケットにだって、出くわしている」

「勝ち目はまずあるまい。しかし、かまやしないじゃないか。おまえはドードー鳥と同じ。死に絶えたんだ。おれだってそうさ。おれたちは、事実に対してずいぶん賢くなってきたぞ。やっていけないことはあるまい」

「さあ、大ばかやろう、火星へ出発だ!」

彼の心の中で、向こう見ずな決心が固まっていった。意気軒昂というやつだ。宇宙空間を横断した最初の男。全人類の代表。身体の中に、全人類の強さを感じ取った。無敵だった。必要とあらば、フェニックス号を弾丸の代わりにして、敵の中心部と思われるところに突っ込んでやろう。


こういうのにほんと弱い。